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変えられないのは下につく者。
変えたくないのは組織。
変わりたくないのは───
「お疲れ様ですぅ」
チリチリと賑やかな音が、祐美の意識を引き戻す。
「いかがですかぁ?お色違いをお持ちしました~」
気がつけば目の前には大きな鏡があり、祐美の首には鮮やかな色が巻きついていた。
色違い?
他にどんな色があるのだろう?
広げてみたその布は大判のスカーフで、ありとあらゆる色がその中で踊っている。
一目見て、その配色に目を奪われた。
他の物なんて、いらない。
「いえ。これで」
「ええ。そうですね。今着ていらっしゃるお洋服では、お色が寂しすぎますもの。それぐらい華やかな方が、気分が変わりますでしょう?」
そうなのだ。
祐美の着ているスーツは黒地に見えないほどの細いグレーのストライプが入っており、中に着ているブラウスすら淡いグレーである。
カバンも靴も黒で──今時染めていない髪は、産まれた時のままの黒い色だ。
その中で唯一の明るい色が、祐美の手の中にあるスカーフだけ。
「気分が……そう、ですね……」
苦い薬。
変わらない自分。
変わらないといけない自分。
変えてはいけない自分。
変わりたくない自分。
変わっていく自分。
「では、こちら三万円になります」
「さっ……」
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