* * * * * *

24/26
前へ
/26ページ
次へ
「おはよう」 ザワッと室内の空気が粟だった。 「お、おはよう、ございます……」 男性社員の何人かはゴクリとつばを飲み込む。 女性社員の何人かは戸惑うような目つきで眺める。 声をかけていいのかどうか、迷う。 「おや、珍しいねぇ」 「ええ。ちょっと見立ててもらったら、案外似合ったものですから」 課長の空気を無視した問いかけに、祐美はにっこりと笑った。 いや──きっとわざと無視して、風穴を開けたのだろう。そういう人だ。 昨日までの祐美ならツンと澄まして、 「余計な口を叩かないでください。昨日のご報告です」 と返すのだけれど、なぜか今日はそんな気持ちにならなかった。 いつもと同じ黒いスーツ。 淡いグレーのカットソー。 そして首に巻かれた華やかなスカーフ。 …リン。チリンチリン。 柔らかく澄んだ音色が、カバンの中から取り出した名刺入れから響く。 書類を持った女性社員が恐々祐美の席に近づいたが、その音に可愛らしい声がワントーンあがって放たれた。 「うわぁ!可愛い~!」 その名刺入れは有名ブランドの物だったけれど、チャームリングに可愛らしいとんぼ玉と鈴がぶら下がっている。     
/26ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加