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それは本当に『舞台衣装』と言われてもおかしくない長いスカートで、裾にキラキラと光るスパンコールやビーズを踊らせ、小さな鈴がいくつもついた腰ベルトをわざと鳴らすかのように店員は体を揺らめかせながら祐美に近づいてきた。
「恐れ入ります。こちらの商品は大変高級なシルクでできておりまして…あまり強く握られますと、皺が大変取れにくくなりますもので」
「なっ……」
いろいろな音を立ててコロンコロンと弾むように近づいてきた店員は、そっと祐美の手からスカーフを取り上げた。
二度と手放さないというほどに強く握りしめていたはずなのに、その布の感触が手のひらから無くなると、祐美はほとんど止まりかけていた息をほっと吐き、浅くなっていた呼吸を少しずつ深く繰り返した。
「よろしければ他のお色もございますので、どうぞこちらへ」
柔らかくにこやかな顔を変えずわずかに顰められたその声に、祐美は息を飲んだ。
そのまま無防備に背中を向けた小さな店員から逃げてもよかったのに、祐美は何も言わずに大人しく店の奥へとついて行く。
向かい合った試着室の奥に下がったバリ風の布地を抜けて、バックヤードへ進み、さらにその奥へと案内された。
チリン。
チロン。
シャラン、シャラン。
キラ…キラ…
明るい天然光が差し込んでいた店内とは正反対に、常夜灯のような微かな明かりしかない中、その光を反射して煌めく鈴やスパンコールを頼りにして、祐美は危なっかしくついていくしかない。
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