3人が本棚に入れています
本棚に追加
「せんせぇ~」
ふわふわと弾んでいた光が止まり、四角い光が突然現れた。
?
その切り取られた光は、入ってきたときと同じように出入り口に掛けられた布地を持ちあげて差し込んできたものだった。
ついて入った祐美の目は薄暗ささに慣れてしまって一瞬眩しく感じられたけれど、ゆっくり開けたその先には、ステンドグラス調のランプやアンティークランプの中で灯るろうそくの明かりがいくつもあるだけである。
その部屋はとてもアパレルショップのバックヤードではなく、ましてや事務所という無機質な感じでもなく、木の床と木の壁、そして大きなテーブルにひとり分のティーカップが置かれていた。
「ああ、まだお仕度中ですわね。こちらのご来店カードにお名前と生年月日とご住所が必須事項で…よろしければご連絡先をお書きくださいませね。後ほどダイレクトメールをお送りいたしますので」
「あっ、あのっ……」
商品を買ってもいないのに、ダイレクトメール用に個人情報なんて書けない。
そう言おうと思って祐美は進められた椅子に近づこうとはしなかったけれど、店員のパッと上げた目の中に揺らめくろうそくの光に押されるようにグッと息を飲み込み、よろけるようにテーブルに着いた。
最初のコメントを投稿しよう!