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自分の物ではない椅子が傷ついたか、最悪壊れてしまったかとヒヤリとしたけれども、その小心さも怒りに無理やり変換して、祐美はさらに言い立てようと前のめりにテーブルに手をつく。
「何……?」
わずかに唇の端が上がり、ゆっくりと声が押し出された。
「ここは警察ではなく、あなたが『何』をしようとしていたのかは、あなたがよく知っているでしょう?」
相手の正体までも問いただそうとしていた祐美は、ひゅっと息を吸って口をつぐんだ。
「ふふっ……」
薄く笑われ、怒りと恥と躊躇がないまぜになり、祐美は自分の気持ちをどこに持って行っていいかわからない。
「もう少しお待ちになって……大人しく座って、お茶をおあがりなさい」
いつの間にかテーブルの上には大げさな羽ペンの差さったインク入れと、A3よりも大きいノートがあり、何も書かれていない紙面が拡げられていた。
「も…申し訳……」
「お茶が冷めますわ。あの子が淹れましたのよ?飲んでいただけなかったら、とっても悲しみましてよ?」
自分の謝罪の言葉を遮った言葉遣いに違和感を覚えながらも、祐美は乱暴に倒してしまった椅子を元の位置に戻して、いたたまれない空気が流れている中、大人しく座って待つことになった。
何か、を。
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