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そもそもなぜこんなところにいることになってしまったのか──元を正せばこの店、いや、『表』のアパレルショップに入ろうと思ったからだったが、そのための不純な動機が本当のきっかけだった。 祐美はある商社で勤続15年という、いわゆる『お局』的な立場である。 昔は入社5~6年で結婚や転職で会社を離れる女性社員が当たり前のような職場だったが、祐美が入社して3年後から女性の管理職が誕生し始め、大きな移動はなかったものの、社内で人事、経理、営業補佐などを経験して、総合企画課に配属された時に『係長』という役職を与えられた。 取り立ててくれたのも女性の先輩で、祐美の真面目な勤務態度や四角四面となりがちな仕事のやり方を評価してくれたことで、その期待に応えようと張り切ったのも、ずっと同じ会社に居続けられた理由かもしれない。 ただ──『同じ場所にいる』ということは、澱みや慣れ、そして変化についていけない固定概念に囚われることであり、祐美もまたそんな虜囚の一人となったことに気がついたのは、ほんの半年前だった。
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