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初任給では絶対買えないブランド物のスーツを着て、ほのかなコロンの香りを漂わせたその男性社員はダラっとした姿勢でワーキングチェアの背もたれが歪むほど寄りかかったまま、通りすがろうとする祐美にいきなり声をかけてきた。 「かっかりちょぉ~、こんなのやってられないっスよ~」 『漢字』という中国由来、そして日本に固定した美しい言葉を知らないかのような緩いしゃべり方で、15歳年下の新入社員の後藤は尊敬語とはとても聞こえない話し方である。 言葉遣いもなっていないが、何よりも祐美の命じた仕事のやり方に反論して来たのにカチンときた。 「朝はこっちやれって言ったでしょ~?なのに、昼帰ってきたら、『こっち先にやっといてー』ってありえないっスよー。段取り総崩れっスよー」 「あのね……」 一応、こらえた。 今までだってこういうふうに仕事の順番に難癖をつけられたことは、何度だってあったのだ。 そのたびに腹を立てていたら、仕事なんて永遠に終わらない。 振った部下の仕事が時間内に終わるかどうかではなく、祐美の仕事が終わらないのだ。     
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