将軍屋敷の鍵の本

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 そもそもの始まりは、僕が屋敷に忍び込んだことだ。  その屋敷は将軍屋敷と呼ばれていた。かつて、この村が戦争に巻き込まれた時に、将軍が最後に死んだ場所であることから付いた呼び名だ。と言っても、歴史の授業ではそんな戦いの話は出てこないし、そもそも誰と誰が戦ったのかもわからない。将軍というのも、名前が残っているわけじゃなくて、村の大人や老人たちがそう呼んでいるから、僕らの間でも将軍と呼ぶようになったというだけだ。  歴史の闇に葬られた、というのが村のみんなの考えだった。  だから、あの屋敷には誰も近づかない。将軍の幽霊が出るなんていう子どもだましじゃない。近づいた人間は、みんなフリーメイソンに連れ去られて、将軍たちと同じように歴史の闇に葬られる。そして、最後には存在した事実までもが消えてなくなるのだ。  友だちは言う。 「お前の父親も、そうやっていなくなったんじゃねえの」  確かに、僕の家には父さんがいなかった。母さんは遠くに仕事に行ってる、としか教えてくれない。母さんの忙しさを見る限り、父さんの仕事は稼ぎが良くないか、お金を送ってくれないかのどちらかだ。 「お前も、将軍屋敷に行けば、母親に迷惑かけないですむんじゃねえの」  母さんはいつも忙しいので、あまり話したことがなかった。だから、僕のことをどう考えているか知らない。でも、休みの日に友だちが家族で連れ立って隣町へ出かけて行くのを見ていると、僕がいないほうが楽なのかもしれないという気がしてくる。
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