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街道の荒れ方からすると、屋敷の様子は異様だった。蔦の一本も絡みついていないどころか、建物の周囲には草の一つも生えていない。長年、風雨にさらされているはずのレンガの壁や、カーテンの引かれた窓のガラスにしても、手入れが十分に行き届いているように見える。
フリーメイソンの仕業に違いない。なぜなら、幽霊は屋敷を掃除したりしないからだ。
玄関は街道から少し離れた場所にあった。扉には蹄鉄を使ったドアノッカーが据え付けられている。周囲を見回し、誰もいないことを確かめてから、三度ノックした。音が小さすぎたのか、中から反応がない。さらに三回、今度は強めにノックするが、やはり反応はない。
馬の頭の形のドアノブを回すと、鍵は掛かっておらず、扉はぎいと小さな音を立てただけで、すんなり開いた。
「おじゃまします」
忍び込む意図のないことを示すため、僕は繰り返しそれを言い続けた。玄関ホールから延びる廊下を進みつつ、左右の部屋を覗くたびに「おじゃまします」だ。小さな部屋の一つひとつは使用人の部屋なのか、背の低いタンスにベッドが一つだけ。飾り気がなく、屋敷の雰囲気にはそぐわない。がっかりし始めた時、廊下の先にある扉がゆっくり、ひとりでに開いた。
僕は今更のように、屋敷に勝手に入ったことを後悔した。どうして、返事があるまで待っていられなかったのか。そんなことで、フリーメイソンが僕を歴史の闇へ連れて行ってくれるのか、疑問だ。
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