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 そう自分に言い聞かせて無理やり納得したものの、私の頭の片隅からは、何かがおかしい、何かが間違っている、というような囁きが終始聞こえ続けていた。  そのような囁きのせいかは判然としないが、私はこの火野に対して──何かは分からないが──何かしらの行動を起こさねばならないという、それまで感じたことのない強烈な衝動に駆られた。  しかし、次の瞬間、車が些か急に止まり、迂闊にもシートベルトをしていなかった私は危うくフロントガラスに頭をぶつけそうになった。  大丈夫か? 着いたぞ。  そう言ってこの火野は車から降り、私はその、自分にもはっきりしていない行動を起こせなかったことに歯痒さを覚えていたものの、返事をしながら降りた。  何か、私の心の片隅に凝り固まっているしこりが膨張していき、私の正気をメリメリと押し潰しているような気がしてならなかった。
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