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 紙片の内容はこのような名状し難い奇怪さを孕むものだった。混乱する頭で私が理解できたことは、梶村に二人の姉弟がいたこと、彼が赤駒村の出身であること、既にその村はないということだけだった。  とりわけ紙片の後半は一体何を意味しているのか全く分からないにも関わらず、吐き気に近い気分の悪さを私にもたらすほどのものであった。  その時だった。あまりの気分の悪さによろめいた私の双眸を何かの輝きが貫いたのは。どうやら匣の中心に蹲る肉塊に含まれる何かが、窓から差し込む太陽光を反射したらしかった。  私は催眠術にかかったかの如く、フラフラと肉塊に歩み寄り、光の正体を突きとめようとした。跪いて、両手を突っ込む。グチュ、グチュと不快な音波が私の聴細胞を(まさぐ)った。  するうち、私は鮮血滴るそれを見出した。  そのとき、私の心の片隅に巣食う狂気という名のしこりによって私の中に僅かに踏み止まっていた正気がついに弾けた。目の前に蹲る肉塊の正体が衝撃的なほど突然に知らされたのだ。  その場に手をつき、溢れんばかりの嫌悪感、不快感、その他名状し難い負の感情の凝り固まった狂気の塊を、咽喉の奥から込み上げるまま、いやむしろ、何らかの邪悪な外的要因に引き摺り出されるまま、私は文字通り「吐き出した」。呻き、喘ぎ、悶えながら、繰り返し繰り返し繰り返し吐き出した。空になった内臓すらも吐き出さんばかりの勢いで。  私が肉塊から見出したもの。  鮮血を滴らせるアンク十字。  この火野が、苛ただしげに、右手で弄繰り回していた、あのネックレスだった。  朦朧とした意識の中、扉が再び耳障りな音を立てた。  続いて押し殺したような悲鳴。  見やると、痩せぎすの気の弱そうな中年男が怯えきった様子で立っていた。  狂気が詰め込まれた匣において、唯一、正気の世界に属するもの。  そのようなものを見て安心したせいなのか、単に私の精神が限界だったのかは分からない。ただ、次の瞬間、私は血だまりの中に倒れ臥し、私の意識は狂気の渦巻く海底へ沈み込んでいったのだった。
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