2/12
前へ
/71ページ
次へ
 病院での出来事の二日後、私は無事に退院した。母親は私に実家に戻り療養するように言ったが、私は頑として譲らず自分のアパートへ戻った。  アパートに帰ると食事もとらずに、私はパソコンに齧りついた。この時、私は既に、全てが始まったに違いない場所、赤駒村に向かうことを決めていた。  何故、あれ程の異常な恐怖を味わっておきながら、その恐怖の源泉だと確信している地へ向かおうなどと思ったのか。  火野を殺した何者かを私自身の手で罰することを望んだからか。  梶村と再び会うことを未だに望んでいたからか。  恐らく、そのどちらでもなかった。  この時、私はただ、狂ってしまっていただけなのだろう。  知ってしまった冒涜的な知識を、その底を知らぬまま、自分の中にとどめて、この先を生きることにひどく怯えていただけなのだろう。  この時感じた恐怖は、冒涜的とはいえ、ただの知識であるはずのものが、直ぐにでも私を噛み潰さんとしているかのような、異常、かつ強烈な現実味を帯びていた。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9人が本棚に入れています
本棚に追加