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 三日後、近くのファストフード店で適当に遅めの朝食をとり、駐車場で火野を待っている時、ふと反対車線に目を向けると白いバンが路肩に止まり誰かが降りるのが見えた。  その誰かはゆっくりと横断歩道を渡り、こちらに近づいてきたのだが、私の全てはこの誰かに釘づけになってしまった。  信号の機械音と行き交う雑踏のざわめきとが、まるで遥か彼方の宇宙空間からのものであるかのように微かに私の鼓膜を揺らし、眼前の光景が死滅したかの如き無彩色をぼんやりと私の網膜に投じていた。  その最中、この誰かの姿と足音、首に輝くアンク十字のネックレスのみが身の毛もよだつような鮮明さと慄然たる恐怖とを伴って、はっきりと、というよりは絶対的に私の全てを貫いたのである。     
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