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今年って、雪降るかな。毎日、天気で洗濯物が良く乾くから嬉しいけど、雨も降ってないもんな。
そう思って、窓から空を見上げた時だった。
「クロ、明日、デートしようか」
久瀬さんが、毎日天気がいいからって、今も快晴、真っ青な空を俺の隣で見上げて指をさす。
「どっか、行きたいとこあるか?」
そして、笑いながらそう言った。
「おー、さすが、十二月、平日でも混んでるなぁ」
俺は、遊園地に行きたいって答えたんだ。
「クロ」
久瀬さんと遊園地に行きたいって。ずっと行ってみたかった場所のひとつだった。遊園地。楽しそうでさ、子どもの頃、憧れの場所だった。
皆が楽しそうで、笑顔で、俺の欲しいものがたくさん詰まっている気がしていた。
だから、彼女ができると、デートで最初に選ぶ場所は大概ここだったっけ。
「どうした?」
でも、来る度に落ち込んだ気持ちになった。
「そんな、ぽかんとして」
何度来ても、どんな彼女と訪れても、俺が見たことのある、あの楽しそうな笑顔に自分だけがなれなかったから。はしゃいで笑う彼女を見ながら、何がそんなに楽しいのかと思ったことだってあるほど、ここは「たいした場所」ではなかった。
「きっと何度か来た事あるんじゃないか? お前」
「……」
「モテてただろうからな。アキもそう言ってただろ? ブイブイってやつだ」
「何それ」
「あー? お前、そのブイブイを死語扱いすんのなぁ」
正面入り口には花壇、見事な花がぎっしりと咲き誇るそこは、今、ちょうど一年でも一番盛大に盛り上がっていると思う、クリスマス仕様に飾られていた。ポインセチアの鮮やかな赤と緑、金色の音符マークがキャラクターの周りで踊っている。軽やかに聞こえるバックミュージックも全てクリスマスソングだ。まだ、もう少し先なのに、ここはクリスマス当日みたい。
この時期に来た事も、あるけれど。
「ないよ」
「クロ? なんか言ったか?」
はしゃいだ笑い声とクリスマスソングに邪魔されて聞き取ってもらえなかったから、今度ははっきりと告げた。
「ここ、来たことない」
そう、言った。
だって本当にない。俺の知っているここはこんなに楽しい場所じゃなかった。
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