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大丈夫だよ。高いところも、落ちそうな恐怖感も、慣れっこだったし。落ちるのだってクライミングで慣れっこだ。滑れば落下、もちろんベルトはついているから本当に落下してしまうわけではないけれど、別に恐怖することはなかった。
だから、ワクワクはしなかったよ。
「わからない」
「だ、だろ? ああいうのは、色々段階を踏んでからだなぁ」
「わからないから、行ってみよう!」
まずは軽いとこから攻めていこうだなんて呟いてる。何か、ジェットコースターに辿り着くまでのコースが久瀬さんの中にはあるらしいけれど、俺はそれを放り出して、この人の手を掴むと、ずんずんと前へと力強く歩いてく。
「ぉ、おい! クロ!」
わからないよ。本当に。
こんなワクワクした気持ちでここに来たことはない。この石畳の道をこんな弾んだ気持ちで歩いたことは一度もない。
だから、わからない。
「大丈夫? 久瀬さん」
「ちょ。ちょ、タンマな? ちょっとだけ、な?」
膝に手を突いて、数回、地面に向かって深呼吸をしたあと、久瀬さんが手近なベンチへと腰を下ろした。ちょうど、ジェットコースターを降りてすぐのところ。腰砕けになった人はさぁここで休んでから行きなさいといわんばかりの場所にぽつんとあるベンチ。
「うん」
そこに座って、久瀬さんは心拍数を下げることに努めている。
「はぁ」
「あ……、俺、このあとは、あっちのに乗りたい!」
「え? あ、あれ? 真っ暗でなんも見えねぇぞ」
「久瀬さんがいるじゃん」
「あ、ままま、まぁな、ってなんで、おい、笑ってんだ。お前なぁ」
「だって」
だって、こんな可愛い久瀬さんが見られたら、笑うよ。
「だって」
「だってじゃねぇ!」
真っ赤になって照れくさそうに仏頂面をするあんたなんて、初めて見たんだから。
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