4361人が本棚に入れています
本棚に追加
/374ページ
「いえ、なんでもないです」
最後の一つは条件にならないよ。それは俺の一番好きな場所なんだから。
そんなわけで、今回はちゃんと許可をもらえたアルバイト。もちろん現金払いの、まかない……のほうは断った。現金払いだけお願いして。まかないのほうはなしに。久瀬さんと一緒に食べたいから。
「黒猫……っぽいですか?」
帰ったら何にしようかな。夕飯。
「初めて見た時は可愛い男の子」
「……」
「今は、そうね……ちょっと、ひとりでこんな場所うろついてると、よからぬ欲望に駆り立てられた男に、きゃあアアア、ぁ、やめてええええ、いやああああんっ……って、されそうな色気たっぷりのネコさん」
手で自分の肩を抱きしめながらブンブンと身体を左右に振って、いきなり叫んだりするから、びっくりした。
「な、なんすか、それ」
「うふふふ」
「最初はノンケの可愛い子、けど、今の君は男を誘惑するイケナイネコちゃん」
「?」
「って、感じ? 成もめろめろー、でしょ?」
目を丸くして、その言葉に胸が躍る。そうであればいいなと、その胸のうちで強く願った。
「あの、久瀬さんの、その歴代の彼氏って」
「……知りたい?」
「そ、そりゃ、まぁ」
自分の過去は捨てたいほどいらないからと教えてないのに、知らないフリをしたままなのに、あの人の過去は知りたいだなんてね。
「すっごく知りたい?」
「は、はい」
「すごおおおおく、知りたい?」
「はい」
綺麗な人、だったんだろうか。でも、可愛いほうが好きなのかもしれない。よく俺を可愛いと言って、嬉しそうに可愛がるから。
どんな人だったんだろう。
「……」
でも、あの人のことだからとても綺麗な、可愛い人だったんだろう。何せあの人自身がカッコよすぎる。
「実は……」
「……」
「…………知らないの」
「! は、はぁ?」
すごい溜めるからどんなことを言われるんだろうとかなり身構えたのに。
最初のコメントを投稿しよう!