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何、してんだって思うよ。
今、自分がありえないことしてるって自覚ならちゃんとある。
「…………さみ」
応援してますとかさ、たった一言だっていい、何か伝えられたらいいと思っただけなんだ。
「おーい、こんなところで寝てると風邪引くぞ」
「……」
そう、せめて、応援してますって言えたらいいなって思っただけ。途方に暮れた俺は、ただ会って、話しかけたかっただけなんだ。頑張ってくださいって言えたらって。
「この辺に住んでんのか? そんな格好じゃ寒いぞ。うち、どの辺だ?」
「……」
「おーい、大丈夫か? 手ぶら? もしかして、全部盗まれたとか?」
俺は、あんたを知ってる。
「もしそうなら」
そんななりをしてるけど恋愛小説家だって、俺、知ってるんだ。がたい良くて、ちょっと無骨な感じ。新人賞を獲ったけれど、そのあとは鳴かず飛ばずで、ヒット作には恵まれてない。長い髪を束ねて、執筆の時には眼鏡をかけるんだろ? 本の後ろ、写真の中のあんたは眼鏡をしてた。原稿を書いている最中だったのか、しかめっ面をしてた。斜め横に首を傾けて俯いた顔は少し気難しそうだった。
「警察行ったか?」
なぁ、けどさ、俺、見たことあるんだ。あんたの笑った顔を知ってる。
猫を、拾っただろ? あの猫は、今、どうしてる? まだ、あんたのところで可愛がられてる?
「なんだ、行ってないのか? 殴られたとかじゃ……顔、傷なさそうだけど」
黒い猫、拾っただろ?
ある出版社の脇、ほんのちょっとあった隙間のところにうずくまっていた、みすぼらしい黒い猫だよ。あんたはその猫をただ一人見つけて抱きかかえた。「なんだ、痩せて、骨と皮だけじゃねぇか」って優しく、両手で拾ったんだ。
「財布、ないのか?」
「……」
首を横に振り続けると、頭上から小さな溜め息が聞こえた。
久瀬成彦(くぜなるひこ)、作家名も名前も同じって知ってる。売れてないけど、あんたの小説、全部持ってるんだぜ? 最新のもあんま売れてなかったけど、でも、俺は好きだった。
「落としたのか? そりゃ、災難だったな」
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