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「……お疲れ」
笑って、ガードレールに腰掛けていた久瀬さんが立ち上がって、そして並んで一緒に歩き出す。
「どうだった? 仕事」
「疲れた」
「あはは。そっか」
「けどっ!」
日が落ちてどんどん冷たくなる空気の中、思った以上に自分の声が響き渡って、俺もだけど、久瀬さんも目を丸くしてる。
「けど……疲れ、吹っ飛んだ」
「……」
「その、えっと」
だって、あんたが迎えに来てくれるなんて思ってもみなかったから。嬉しくて、疲れなんて吹っ飛んだよ。
「元気だなぁ、若者は。って、年齢、わかんねぇけど」
違うよ。若者だからじゃなくて、あんたが迎えに来てくれたからだってば。すげぇ寒い日に何時に帰るとか言ってなくて、スマホも、なんも持ってない俺をただ待っていてくれたからだよ。
「お前はもう飯食ったのか」
「ぁ、うん、そのはずだったんだけど、予定よりも早く終わって帰らされた」
「へぇ、ラッキーじゃん。そしたら、今日はうちで夕飯だな。そのほうが俺は嬉しいよ」
嬉しいって言われて、嬉しくなってしまう自分がいる。
「ニラたっぷり入れたチゲ鍋にすっか?」
手が冷たかった。
久瀬さんも手が冷え切っていると、その時自覚したんだろう。いつもみたいに、猫を可愛がるように撫でようとして、触れてすぐに引っ込められた。指は氷みたいに冷たくて、どのくらい長い間待っていてくれたんだろうって、そう思っただけで疲れなんて吹っ飛ぶよ。嬉しすぎるでしょ。だって――。
「仕事」
「あ、うん」
「しんどかったら」
「全然、その、力仕事とか全然得意っつうか」
「へぇ」
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