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絨毯が案外重かった。あと、椅子もけっこう重かった。でもどれもひとりで持てたから、重宝はされたっぽい。明日も、明後日も頼みたいって言われたし。
そう伝えると少しだけ顔が曇ってしまった。
大丈夫だって。そんな怪しい仕事じゃないし、紹介してくれたの、その、あんたの恋人だしさ。
なぁ、やっぱ恋人なんでしょ?
「あんま無理すんなよ?」
「うん。ありがと」
「きつかったらすぐに言えよ」
「う、ん」
なんで? あの人が恋人だから?
あんたが迎えに来てくれただけで疲れが吹っ飛ぶ。あんな大事な指が氷みたいに冷たくなるまでここで待っていてくれた。恋人がいても俺をこうして迎えに来てくれて、一緒に帰ってくれる。それが嬉しい。この優越感も、全部。
全部が繋がってるんだ。
久瀬さんのことが好きっていう、この気持ちに繋がっている。
「あ、そだ、久瀬さん」
「んー?」
二人の間を白い湯気がふわりふわりと立ち込める。ニンニクとニラの香りが食欲をそそる。
「これ、今日もらった分」
「……」
給料、日払いだから、帰りに現金支給される。いや、たぶん銀行振り込みとかできるんだろうけど、アキさんが現金手渡しに変えてくれたのかもしれない。
「は? いいって」
「けどっ!」
「いらないっつうの……」
「や、だって」
そこで久瀬さんがぴたりと止まった。金もらってもらわないと意味ないじゃん。食費とか家賃でもいい、とにかく久瀬さんの負担を減らせばここにもっと長くいられるかもと。
「お願い、もらってよ」
「……けどなぁ」
「記憶がっ、戻るまで世話」
図々しくもここにいてもいいと主張できる権利が欲しいんだ。
「記憶が戻るまで置いてくれるんでしょ?
追い出されないために。
「なら、食費でも家賃でもこれ使ってください」
あんたといるために、このお金稼いできたんだ。
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