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「お前、案外タフだなぁ」
「……そ? はい。コーヒーどうぞ」
熱いから気をつけてと、手渡さず、久瀬さんのそばに淹れたてで良い香りが漂うコーヒーを置いた。だって、大事な指が火傷したら大変だからさ。そして、俺はいそいそと定位置であるソファの上に座る。まるで下は海とでも思ってるみたいに、足を下ろさず、ソファの上で膝を抱え、湯気の立つコーヒーの表面に、ふぅ、と息を吹きかけた。砂糖が入ってるのはちょっと苦手だ。ずっとブラックか、入れてもミルクだけだったから、やっぱりそっちのほうがしっくりくるっていうか、後味の甘さだけが喉のところに残るのがあんまり好きじゃない。今日は、ミルクだけ入れてみた。久瀬さんのと同じクリームの混ざったブラウン色。
そんな俺を見ながら、照れ臭そうに久瀬さんがせっかく束ねた長い髪をぐしゃぐしゃと大きな手で掻き乱した。
俺は、本当は、ちょっとだけ、その、昨日と今朝したとこが、変な感じはしてるよ。内緒だけど。
痛くはない。ちっとも。
なのに、今日は安静に、なんてさ。買い物も料理も全部久瀬さんがやるなんて言うから、どこも変じゃない、大丈夫だって言っちゃったんだ。そうじゃないとあんたの執筆の邪魔になる。
初めてだからって、こんなに大事にしなくても平気だってば。
だから、変と違和感とか絶対に言わない。言ったら、あんた、加減しそうじゃん。優しい人だからさ。優しくて、汚いガリガリに痩せた黒猫も、図体のでかい雄の人間も、拾ってきてしまう人だから。
それにね、実は、この違和感も嬉しかったりするんだ。
「がーっ! お前なぁっ!」
「っちょ、何? 俺、邪魔した?」
「ちっげーわっ! なんで、そんな可愛い顔なんてすんだよ」
「は?」
これは、あんたが、昨日と今朝、俺の中にいたんだっていう証拠。俺の中をたくさん何度も、暴いたって実感できるから。だから、いいんだ。加減しないで欲しい。
「可愛いわけ、なっ」
「あるんだよ。そんな可愛い顔すんな。可愛がりたくなる」
「っ……」
首根っこを掴まれ、引き寄せられ、そのまま下から久瀬さんにキスをされた。ちゅって、触れて、少しだけ啄ばまれて、小さく甘い刺激に昨日あんたがいた俺の奥のところが反応する。
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