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「え?」
「あっ! おい! アキ!」
「ぁ、成ちゃんだー!」
その時を狙ったかのように、他のキャスト、もちろん女装している男性が一斉に久瀬さんを連れて、いや、連行していった。それこそ、刈り取られるみたいに首のところをガシッてされて。
今の人も……女装カテゴリーに入る、んだよね? 入る? のか?
「成はここの常連だからねぇ」
「……」
「どこまで聞いたのかわからないけど。幼馴染なの。成とは」
どこまでも何も、そのあとすぐに、その話が展開してっちゃって、アキさんのことはあまり聞いてなかった。
ただ、あの人に自分が好かれているっていうだけで、俺にはもう充分だったから。
「常連だけど、ここ最近はずっと、出版社帰りの憂さ晴らしって感じだったわ」
「……ぇ?」
「出版社で打ち合わせがあると絶対にうちに寄って、ぐでんぐでんになるまで飲むの。それこそ一人で帰れなくなるくらい。でも、最後にうちの店に寄った時、愚痴も、何も言わなかった」
アキさんはそこで、確かに女性にしては少し大きく感じる手で、長い髪を耳にかけ、俺に、ウーロン茶を作り直してくれた。
「拾ってきたっていう、黒猫の話ばっかりして、帰ってったの」
そして、作りたてのウーロン茶を手渡しながら、俺にニコリと笑った。
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