第1章

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 「米粉100%、乳製品・鶏卵抜きで作ったけど、中身は包みに書いてあるから、アレルギーの友だちには気をつけてもらってね」  「りんご、かぼちゃ、おから、あ、ミート、サーモン、切り干し大根? お店みたいだねえ、一個300円で売ろう」  すみっこをつまもうとしたら、おかあさんに手をぱちんとたたかれた。  「お迎えが来たみたいよ」  ほんとだ、かすかにエンジン音が響く。  あたしは裸足で玄関から飛び出す。  「ごめん、5分待ってー」  マンション前の道へ手を振りながら、気がつく。  「はれ?」  カイの家のじゃない。見慣れた紺色の車……運転手が車から出てくる。鴎さんじゃない……。  「なんでひぐっちゃんが」  あたしの手から荷物を取って、  「バイトだ。鴎に頼まれた」  車の後ろへどんどん積み込む。  「ガキが5人もいるから、羊飼いに大人二人は必要だろう」  「大人?」  「文句あるか?」  小さな黒目があたしをちらっと見下ろす。  「ないないない」  ひぐっちゃんはサングラスをかけた。  「もう三匹ほどガキを拾ってくぞ」  ひぐっちゃんはいつものひぐっちゃんで、ずっとあたしの頭の中でこねくり回していた、よくわからない人じゃない。  スキップしながら助手席に乗りこんだ。  「よっしゃ、それならば、パワーステアリングにしゅっぱあつ!」  「は?」  ちょっとあたしを見て変な顔をしたけど、ひぐっちゃんはすぐに前を向いて車を出した。    門の前に、ふたり立っている。  あたしは胸をおさえ、ひゅうと息を吸った。  車はそのまま、きさらぎ荘前へすべりこんだ。  「おはよう」  エカキはいつものようにうれしそうだ。デイパックを背負ってる。大きすぎてデイパックにだっこされてるみたい。  まだ動いているうちに、あたしはドアを開け車を飛び出す。ぐるっと回りこんで叫んだ。  「エース!」  「おす」  紺色のキャップをかぶったエースは、ごくふつうに見えた。ちっこいショルダーバッグ一つだ。  「あんた、今まで何してたんだよ、どこにいたの?」  息を切らせて、あたしは責めるみたいに聞いた。  「……お、おう」  ちょっと恥ずかしそうに顔をそむける。  ひぐっちゃんが車から出てくる。  バックドアを開けて、まずエカキのバックパックを押しこんだ。  「おまえも荷物よこせ」  エースはキャップをとって一礼した。深刻な声を出した。
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