第1章

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 「樋口さんどうも……この間は」  ひぐっちゃんはエースの小さなバッグを放り込んで、  「ああ? 俺が金出してるわけじゃねえ、早く乗れ」  早足で車に戻った。    あんなも乗って、ぎゅうぎゅうづめでカイの家に着く頃には、日が差してきた。  どうやら、今日は雨さんもお休みを決めたようだ。カイが金で何とかしたのかもしれない。  ここに車を置いて、バスみたいなでっかい車に乗り換える。  「すげえ家だな」  エースがきょろきょろ庭を見渡す。  ま、庭つうか、森みたいなんだけどね。家の建物はここからじゃ見えない。  「早く乗れよ」  バスからカイと、  「おはようございます」  運転手の鴎さんが姿を現した。あいかわらず、やさしそうでかっこいい。  「おい、」  エースがせせら笑って、カイに近づく。  「おまえのオヤジ、どんな悪さしたんだよ」  「は?」  カイはきょとんとした顔だ。  エースは肩を左右に振って、変な歩き方をする。  「だからー、悪さでもしなけりゃ、都心にこんな家建てられねえだろ」  「なにいってんの、あんた」  エースの腕を引っぱって下がらせてから、あたしはわざとらしく挨拶した。  「おはよう、カイ。お招きどうもありがとう」  「カイくん、おはよう、今日はよろしく。わたしお菓子作って来た」  あんなと、  「おはようございます、これ、ぼくのおかあさんの作った大福なんですけど」  エカキも口々に挨拶する。  「うん、おはよう、じゃあ出発しよう」  カイは無理に笑ったふうに見えた。  あたしはちらっと振り向く。  エースは両手をポケットにつっこんで、じっと地面をにらんでいた。泣きそうな顔をしている。  夏にこんなこといったことなかったのに、エース、どうしちゃったんだろう。     △  行きの車中は穏やかだった。  用心のためエースを窓際に追いやって、あたしはそのとなりに座った。  ひぐっちゃんは一番後ろの席を占領して寝ころんだ。  「あーあ疲れたー」  バスが出発する前にぐうぐう寝入ってしまう。  高速道路に入るころ、カイが熱い紅茶を紙コップに入れて回す。  なんでかしんないけど、カイは紅茶が好きだなあ。  みんなが持ち寄ったおいしいものも回ってくる。  あんなの手作りお菓子は、シリアルやドライフルーツを固めたバーだ。エカキの大福も、智春さんの白パンもおいしい。
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