第1章

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 わいわいいって食べながら、すぐ、あたしたちは夏の感じを思い出す。  最初緊張気味だったあんなもエカキも、あの頃みたいにおしゃべりしている。  カイがタブレットで現地の写真をまとめて見せてくれた。  「うわ、なにこれ」  「きゃっ」  あたしもあんなもびっくりした。キャンプというからテントか、せめて小屋的なやつだと思ってた。  「エリアによってテーマが違うんだけど、ぼくらが泊まるのはパオ村だよ」  遊牧民の使う移動用テントに似せて、でもそれよりずっと豪華にしているのだそうだ。  「もちろん、ベッドもあるし、トイレやシャワー設備もある。メインラウンジには温泉の大浴場もあるから」  「なにそれ、キャンプじゃなくない?」  「ぼく、寝袋持ってきちゃった」  「だからグランピングだっつうの。でもアウトドア要素もたくさんある。食事はバーベキューだし。みんなで役割分担して作るんだよ」  「面白そう!」  「裏山でキノコや山菜をとって使おうとも思ってる」  「え、きのこ? 大丈夫かな?」  「げらげら笑いながら一晩中おどりくるったりして」  「大丈夫、鴎は調理師免許と、きのこアドバイザー持ってるし」  「なんじゃそれー」  「鴎さんて、いくつ資格持ってるんですか?」  「うーん……数えたことないですねえ」  おしゃべりの途中で、あたしはちらちら窓際の席を見た。  エースだけは黙りこくって、窓の外を見ている。  エカキもちらちら気にしている。でも、話しかけるようなことはしなかった。  「じゃあ、部屋割りだけど。丘の上の二棟は男子と女子でそれぞれ。小川のそばの一棟に樋口さんと鴎が泊まる。そっちにはキッチンダイニングがあるから、みんなで集まって飯作るんだってさ」    高速道路を下りたら、車は山道に入った。  木々の葉っぱはもう赤や黄色になりかけてる。お日様の光を通して、セロハンみたいにきらきら光る。  片側は川だ。次第に川幅は細く、流れは早くなっていく。ごつごつした岩場を流れる水は青や緑に透き通ってとてもきれい。  早起きしすぎたせいだ。  ちょっとうとうとしてた。あたしが気がつくと車は停まっていた。  「あれ?」  窓からカイやあんなやエカキたちが見えた。山のてっぺんみたいなところで、向こうに遥かな下界の景色が広がっている。絶景ってやつか。  車の中はあたしとエースだけだった。
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