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エースも今起きたみたい。うーんと伸びをした。
「エース、トイレ行く?」
あたしは席をいったん立ったけど、エースは首を横に振った。
元通り座って、ちょっと顔を寄せる。ひそひそ声で聞いた。
「ねえ、なんかあったの?」
「ごめん」
あたしから顔をそむけて、窓の外を向く。
「ごめんじゃなくて、」
あたしもあんまりエースの顔を見られない。
「ああいう態度……カイにつっかかるのとか、やめなよ」
エースはやっとあたしを見て笑う。でもいやな笑い方だ。
「おまえの将来のだんなさまだもんな」
「なにいってんの?」
「別に」
あたしたちはにらみあう。
その目をそらせて、エースはつぶやく。
「おれなんて、来なきゃよかったんだ」
「今さらそういうこというな。もう来ちゃったんだし。ねえ、エースあんた一体全体どうしちゃったの?」
「別に。苦労知らずのお坊ちゃん見てると、ムカつくだけだよ」
あたしはひとつ、そっと息を吐いた。
「エース、それは違うから」
「なにが」
できるだけ静かに話そうと思った。
「カイは苦労知らずなんかじゃない、あの子は今までとてもつらい思いをしてきた。見せてないだけなんだよ。エースにつらいことがあるように、あの子も大変だったんだから」
エースはふん、と一つ鼻から息を吐く。
「はいはいわかりましたよどうもすいませんっしたー」
あたしはカッとなる。
「あんだよ、てめえのその態度はよお!」
エースのシャツの胸ぐらをつかんで揺さぶる。
「……う、わ、」
エースは真っ赤な顔でじたばたする。もっと揺さぶってやる。
「おらおらおら、もう一度減らず口いってごらん」
なんだかんだいっても、エースはあたしよりだいぶチビだ。力では負けない。
「うるせえ、ガキども」
あたしとエースは動きを止めた。
奥の席がごそごそして、むっくり、ひぐっちゃんが起き上がった。
忘れてた、この人がいたこと。
ぼりぼり長い髪をかいてあくびする。
「なにやってんの、今流行のいじめですか」
あたしはエースを離す。
「ひぐっちゃんに関係ないじゃん」
ひぐっちゃんは白くもない歯を見せて笑う。
「お、いいねみずき、中坊らしくって。心の闇だね、ひゅう」
下手な口笛吹いて、両手で指さす。
……むかつく。
「うう、膀胱が破裂しそうだ」
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