第1章

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 エースも今起きたみたい。うーんと伸びをした。  「エース、トイレ行く?」  あたしは席をいったん立ったけど、エースは首を横に振った。  元通り座って、ちょっと顔を寄せる。ひそひそ声で聞いた。  「ねえ、なんかあったの?」  「ごめん」  あたしから顔をそむけて、窓の外を向く。  「ごめんじゃなくて、」  あたしもあんまりエースの顔を見られない。  「ああいう態度……カイにつっかかるのとか、やめなよ」  エースはやっとあたしを見て笑う。でもいやな笑い方だ。  「おまえの将来のだんなさまだもんな」  「なにいってんの?」  「別に」  あたしたちはにらみあう。  その目をそらせて、エースはつぶやく。  「おれなんて、来なきゃよかったんだ」  「今さらそういうこというな。もう来ちゃったんだし。ねえ、エースあんた一体全体どうしちゃったの?」  「別に。苦労知らずのお坊ちゃん見てると、ムカつくだけだよ」  あたしはひとつ、そっと息を吐いた。  「エース、それは違うから」  「なにが」  できるだけ静かに話そうと思った。  「カイは苦労知らずなんかじゃない、あの子は今までとてもつらい思いをしてきた。見せてないだけなんだよ。エースにつらいことがあるように、あの子も大変だったんだから」  エースはふん、と一つ鼻から息を吐く。  「はいはいわかりましたよどうもすいませんっしたー」  あたしはカッとなる。  「あんだよ、てめえのその態度はよお!」  エースのシャツの胸ぐらをつかんで揺さぶる。  「……う、わ、」  エースは真っ赤な顔でじたばたする。もっと揺さぶってやる。  「おらおらおら、もう一度減らず口いってごらん」  なんだかんだいっても、エースはあたしよりだいぶチビだ。力では負けない。  「うるせえ、ガキども」  あたしとエースは動きを止めた。  奥の席がごそごそして、むっくり、ひぐっちゃんが起き上がった。  忘れてた、この人がいたこと。  ぼりぼり長い髪をかいてあくびする。  「なにやってんの、今流行のいじめですか」  あたしはエースを離す。  「ひぐっちゃんに関係ないじゃん」  ひぐっちゃんは白くもない歯を見せて笑う。  「お、いいねみずき、中坊らしくって。心の闇だね、ひゅう」  下手な口笛吹いて、両手で指さす。  ……むかつく。  「うう、膀胱が破裂しそうだ」
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