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むかつくうえにデリカシーのないおっさんは、猫背でそろそろバスを降りていった。
△
施設の門をくぐった後も、車はしばらく暗い森を進んだ。
「うわあ」
あたしたちは口をそろえて叫ぶ。
いきなり光の中へ出た。
空は磨きたてみたいに青く輝き、さんさん日が差す。
赤や黄色に輝く紅葉の森に囲まれて、ここは別の国だ。
子どもがクレヨンで描くような黄緑色の丘が広がり、その中に白い点々が見える。
近づくと白い点々は、生クリームだけのホールケーキみたいな形だ。
もっと近づくと、木や布で作られた建物だってわかる。今にもモンゴルの遊牧民が羊の群れといっしょに現れそう。あれが、あたしたちが泊まる“パオ”だな。
「なんか、別世界に転生したみたいじゃん」
「魔法が使えそう、かわいい! かわいい!」
あたしとあんなは完全に浮足立つ。
車が停まり、外へ飛び出そうとしたけど、エカキがぐったりしている。
「ちょっと車に酔った」
弱々しく笑う。
カイに呼ばれて鴎さんがやってきた。おでこや腕に手をあてて様子をみる。
「少しお休みになった方がいいですね」
お姫様抱っこで車から降ろし、そのまま丘を上ってパオへ入った。
あたしたちもついていく。
足元がぐんと沈んだ気がして見ると、下はふかふかのじゅうたんだ。
「だいじょぶか、エカキ」
エースが先回りでベッドカバーをはずし毛布を折り返し、エカキの靴を脱がせた。
「ありがとうございます」
エースに会釈して、鴎さんはエカキを寝かせた。
エスニック柄の重厚な毛布を何枚も重ねて、エカキは遊牧民の王子様みたいに見えた。
ベッドのまわりに集まった家来たちを、王子様は恥ずかしそうに見回す。
「ちょっと疲れただけだよ」
「無理すんな」
エースの態度はさっきのあたしに対するのと全然違う。優しい声としぐさでエカキの前髪をかきあげてやる。
「でも顔が真っ赤だよ、熱があるんじゃない?」
あんなが心配そうにのぞく。
「いやいや、それは……」
あたしはいいかけてやめて、ぐるんと天井を見上げる。
「でも、すごいねえ」
「うん」
みんなもそろって首を上に向ける。
天井は高く、てっぺんに窓がある。そこから青空が見え、太陽の光が太い柱になって部屋に射し込んでいる。
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