第1章

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 壁を見ると、骨組みの様子がはっきりわかる。細い木材がマジックハンドみたいに組み合わさって、ぐるりを取り囲んでいる。幾何学模様がきれいで、それだけでおしゃれで特別な感じだ。  本格的なベッドやクローゼットも置いてあるのに、中はとても広い。パオやゲルって、テレビとか写真で見たことがあるけど、それを見てこのくらいだろうなって想像する、三倍は広い。やろうと思えば、中でバスケットボールだってできるだろう。(やらないよ)  あたしとあんなの荷物を隣のパオに運んでくれて、鴎さんはみんなにいった。  「みなさんお疲れさまでした。しばらく休憩にいたしましょう。荷物をといたり、まわりを散策されたり、ご自由にお過ごしください。僕らは燃料や食材などを取ってきます。ご夕食の準備ができるようになりましたらお呼びしますので、ご協力をお願いいたします」  ひぐっちゃんといっしょに車に行きかけて、振り向く。  「ただ、森には入らないでくださいね。迷子になりますから」    あたしたちのパオに入ってから、あんなはきゃあきゃあいいどおしだ。  さっきの男子たちの部屋は茶色や黒っぽい感じだったけど、こっちはピンクやクリーム色が中心で、それでいてけばけばしくないアースカラーだ。タンスやじゅうたんも使い込まれたふうでとても落ち着く。  「センスいいよねえ、ね、これかわいい」  あたしを引っぱって、あんなはあちこち見て回る。かしゃかしゃ写真も撮りまくる。  トイレやシャワーは雰囲気をこわさないところにうまくかくされている。  「まあ、でもこれはキャンプじゃないよな」  あたしが肩をすくめたとき、外が騒がしいのに気がつく。  誰かが叫んでる。  「やめなよっ」  あたしとあんなは顔を見合わせる。  「今の、声……」  「……エカキくん、だよね」  あわててパオを出た。  土と、引きちぎられた草の匂いが強く鼻をつく。  パオの入り口で毛布を引きずって、エカキは立ちすくむ。  その目の前で、ふたりが取っ組み合っている。  カイとエースはお互いの服や腕をひっつかみ、ごろごろ草地を転がる。  あたしは飛び出して、  「やめろっ」  ふたりの体をつかんで離そうとした。けど、勢いに巻き込まれて、  「うわああ」  世界がぐるぐるして、目の前が一瞬白くなる。  「ぎゃあ」
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