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「確かにわけわかんない。でもほっとけない。あの子もいろいろあるんだから」
外へ出ていく。
ぐるぐる探して、やっとエースの背中を見つけた。車で入って来たとはまるで逆の方向へ向かってとぼとぼ歩いてる。
「なんだよ、行き先なんてないくせに」
あたしは歯を食いしばって駆け出す。
たちまち追いついて、
「おらあ」
ラグビーのタックルみたいに、足をつかんで転ばせた。
「なにすんだよお」
エースは怒りの声を上げたけど、抵抗せずにその場に座りこんだ。
「逃がさないからねえ」
「わけわかんねえ」
ほっぺをふくらましたけど、顔を上げてはっと顔色を変えた。
あたしも振り返る。
「ありゃ、体は平気なの?」
エカキは大きなデイパックを背負っていた。真っ赤な顔ではあはあ肩を揺らす。目にいっぱいの涙をためていた。
「ごめんよ、しげる……ぼくが無理に誘ったばっかりに」
細いひざを折って、あたしたちといっしょに座りこむ。
「なんで、おまえが謝るんだよ、おまえは黙って寝てろよ」
エースの声はきまり悪そうで、だんだん小さくなる。
「おれだって、行きたかったから来たんだ……こういうの、行ったことなかったし」
エカキはデイパックを下ろし、中に手を突っこむ。
「あのさ、これ使ってよ。ぼくいっぱい持ってきすぎちゃったからさ」
長袖Tシャツやジャージやらがつまったビニルパックを取り出した。それから、くるくる巻かれた大きなものも。
「寝袋も使いなよ。これなら外でもあったかいから」
「お、おう」
エースは素直に受け取る。やっぱり寒いんだ。こいつ、小刻みに震えてるし。しかし、なんで寝袋?
エカキは泣き顔をごしごしこすり、むりやりにっこり笑って見せた。
「あっちの森の中で着替えてきたら? それから帰ってきなよ」
「お、おう」
着替えを抱えて、エースは森の中へ入ろうとする。
「エース、そっち行っちゃだめって鴎さんが……」
いいかけたあたしの腕を、エカキが引っ張る。
「みずき、大丈夫だから。エースはちゃんと着替えて戻ってくる。ぼくたちは先に帰ってカイの話を聞いてあげよう。あの子、いろいろ勘違いして怒ってるだけだから。なだめられるのはみずきだけだよ」
「ええ、どゆこと?」
勘違いも何も、あたしにはまったく状況がわからなかった。
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