第1章

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 見てたみんなが叫ぶ中、エースはごろんごろんと丘を転がり落ちて行く。そっちはさっき、あたしたちが転がったコースじゃないか。  「エース!」  あたしとカイが走って追いつくと、エースは小川にはまってはいなかった。  「なにこれ? 新ジャンルのゲーム?」  薪を背負ったひぐっちゃんが、がっちり、エースを足でふんづけていた。     △  これで全部が丸く収まった、とあたしは思った。  晩ごはんの準備はすてきだった。  あたりが薄暗くなってきたので、あちこちに点々とランプが置かれた。ランプの揺れるオレンジっぽい光に照らされると、それだけで景色はセンスがよく、食材はおいしそうに、人の姿はカッコよく見える。  鴎さんが炭火をおこす。長四角のグリルを三つに分けて、炭の量を調節して、強火・中火・弱火ゾーンを作る。へえ、なるほど。  まずはバーベキューだ。  たまに河原でやる、飯ごう炊さんとか焼きそば作るのとはちょっと違う。  大きなホタテ貝やソーセージ、そして、  「「「「おおー」」」」  歓声とともに、特大の牛肉が登場。  「今日はシュラスコスタイルでやってみましょうか」  って鴎さんはいって、巨大なたかたまりを串に刺してあぶり始めた。  「鴎さん、手際がいいねえ、さすが調理師」  「一応、キャンプ・インストラクターも持っておりますので」    あたしたちもお手伝いを任命された。  「できるだけ細かくお願いしますね」  玉ねぎやにんじん、ピーマン、セロリをそれぞれ細かく刻む。  「肉にぴったりのおいしいソースになるから、がんばってください」  玉ねぎに泣かされてるカイを励ました鴎さんだけど、  「あ、ばか、ビリヤニがダメになる!」  ひぐっちゃんを怒鳴った。  焚き火台にかけられたダッチオーブンのふたをとろうとしたのだ。ビリヤニって、インドの炊き込みご飯なんだって。  鴎さんは大きなため息をついて、ひぐっちゃんを見限る。  「おまえは邪魔しないのがお手伝いだ、酒飲んでていいから、いすから立つな」  「やりい」  さっそくワインの栓を開けて、マグカップにどぶどぶ注ぐ。  「……なんか、すみません」  ニンジンを刻む手を止めてあたしが謝ったら、みんなに大笑いされた。
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