第1章

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 エカキがうれしそうに声を上げる。  「おう」  ぶすっと席についた。    霧はすっかり晴れ、あたたかな斜めの日が差しこむ。小鳥が鳴いて、ゆるい風がわたり、今日もすてきなお天気になりそうだ。  無数のパンケーキが焼きあがって、香ばしいコーヒーが入って、すばらしい朝ごはんが完成した。  「いっただきまーす」  ぱちんと手を合わせて、あたしはさっそくバターと糖蜜のかかったパンケーキにかぶりつく。  「おいしい!」  いつものパンケーキと違うけど、中身しっとりで何枚でも食べられそう。  あたしは感動して隣を向いた。  「ね、おいしいね、エース」  「……」  「カイ、これ好きな味でしょ?」  「……」  明らかに男子どもの雰囲気がおかしい。エカキも笑っているけど、眉毛はとても困ってる。  あたしの耳に手をあてて、あんながささやく。  「また、ケンカしたんだって」  「え、なんで?」  あたしが聞き返すと、さあ、というふうに肩をすくめる。  これみよがしな大声が響きわたった。  「何にもないところに、わざと波風立てるやつのせいじゃない?」  カイがパンケーキにフォークをぶっすり突き立てる。  食器をがちゃんといわせて、  「はあ?」  エースが立ち上がる。  「食べよ、ね、食べよ?」  エカキにシャツのすそを引っぱられて、エースはしぶしぶ座ったが、  「てめえで稼いだ金でもねえくせに、えばり散らす金持ち坊ちゃんのせいじゃね?」  明後日(あさって)の方を見て怒鳴る。  「なんだと!」  今度はカイが立ち上がる。  「カ、イ、」  あたしがとがめると、すとんと腰を下ろした。くっつくほど皿に顔を近づけて、やけくそのスピードでかっこみだす。  「あーははは、面白(おもし)れえ、やれやれ」  手をたたいて笑いだしたのはひぐっちゃんだ。  「どうせなら相撲かなんかで決着つけろ。おい鴎、おまえどっちに賭ける?」  エカキにジュースをサーブしていた鴎さんは、  「だ・ま・れ」  口の形だけでいって、ひぐっちゃんをにらむ。でもピッチャーを置いて、いつものにこやかな顔に戻った。  「さて、本日の予定をお伝えします。皆さんにはこれから、今夜の夕食の食材を調達してきていただきます」  「え?」  「なになに?」  「どういうこと」  むくれた約二名をのぞいて、口々に聞いた。  みんなの注意をじゅうぶんに引きつけてから、鴎さんは続ける。
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