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「まず、午前中は車で湖に行きます。うまくいけば、今晩にはマスの塩焼きかワカサギのフライが食べられます」
「釣りか!」
エースがぱっと顔を上げた。
鴎さんは復讐のようににっこり笑いかける。
「ボート漕ぎ頼むよ、樋口」
「うわ……」
ひぐっちゃんは心底面倒くさそうに天を仰ぐ。
「ランチの後は山に入ります。おいしいきのこ汁と山菜天ぷらが食べられるとようございますねえ」
「任せてよ」
カイが胸を張る。
「ロシアの別荘じゃ、ぼくが一番のきのこ採り名人なんだから」
「ほら出たよ」
エースがつぶやくが、カイはつんと無視する。
鴎さんの眉毛もちょっぴり困り気味だ。
「いずれも、皆さんのチームワークが試されます。協力して助け合って、おいしく楽しいディナーをいただこうではありませんか」
△
太陽はすっかり高く上り、広い水面をアルミホイルのように輝かせる。近くの山並みは緑とオレンジと黄色と赤の細かいブロックを、名人が芸術的に積み重ねたみたいだ。鳥は楽しそうにうたい、少し冷たいけど風はさわやか。波は穏やかで、あたしたちの乗る手漕ぎボートはのんきに漂い、ときおりごとごとハミングする。
つまりは、とってもとっても平和で素晴らしい湖の風景だって、いいたいんだけど。
「なんで、よりによってあのペアなの?」
ぴくりともしない釣竿を放ったまま、あたしは船べりにしがみつく。
「しょうがねえだろ、くじ引きの結果だ、くそ、狭えな」
ひぐっちゃんはオールを引き上げて、寝転がろうと体をごそごそ動かす。
「ああっ、あれじゃひっくり返る」
エカキは気が気じゃなさそうに、かなたのボートを見つめる。
定員三名のボートが三艘。漕げるのが鴎さん・ひぐっちゃん・カイの三人なので、誰が誰と乗るのか、くじ引きで決めた。
あたしとエカキとひぐっちゃんがそろって見つめる反対側には、鴎さんとあんながほぼデート状態で幸せそうに釣り糸を垂らす。それはそれでちょっと心配なんだが、やはり今見守らねばならないのは、あっちだ。
だいぶ離れているのに、カイとエースのボートはぐわんぐわん揺れ、口汚いののしりあいの声が、平和であるはずの湖上にこだまする。
くじで決まった時は、カイは「いいチャンスだ。理性的に対話して和解してみせる」とかなんとかいってたし、エースも無言ながら拒否はしなかった。
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