第1章

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 「そもそも、ケンカの原因はなに? なんでエースは、あんなにカイにつっかかるの? そいでなんで、カイもまともに相手にするわけ?」  ボートを見つめたまま、エカキは悲しそうだ。  「昨日の夜、カイがお風呂から帰ってきたとたん、また領土の線を越えた越えないでもめて、結局、エースが『おれは外で寝る!』って宣言して、寝袋持って出て行っちゃったんだ……ごめん、ぼくが真ん中のベッドで寝ればよかった」  「エカキが謝ることないって。そういう問題じゃないでしょ? エースがどうかしてる。言いがかりつけて、まるでケンカしたいみたい」  ようやく体を落ち着けて、ひぐっちゃんが寝の体勢に入る。  「あーあ、この調子じゃ、ふもとの魚屋まで仕入れに行かないといけねえのかよ、めんどくせえなあ」  「寝てないで、ひぐっちゃんも釣りなさいって」  エカキが水面に目を移す。  「あ、みずき、引いてない?」  「うそ? ほんとだ!」    あたしが一匹、あんなが二匹マスを釣ったが、ちょっと夕ご飯には足りそうにない。  「ちょっと男子~、なにやってたのよ~」  あたしがいやみったらしく聞くと、エカキは頭をかき、カイとエースはつんと、それぞれ別の方角を向く。どうやら和解はならなかったらしい。  湖畔で食べたおにぎりはおいしかったけど、空気はちょっと重苦しい。     △  ランチの後、パオ村にもどった。  「じゃあ、樋口頼む」  鴎さんに食材のリストを渡され、ひぐっちゃんはしぶしぶ車で山を下りて行った、  「僕はここで下ごしらえをしてますので、皆さんはまわりの森で、きのこや山菜を取ってきてください」  「はあい」  あたしたちは小学生みたいに声をそろえた。  「いくつか注意点を申し上げます」  鴎さんはいつもの微笑みを消し、真剣な顔になる。  「敷地の境界には、木の幹に赤いテープが巻いてあります。その向こうには絶対に行かないこと。  参考資料はお渡ししますが、きのこはもちろん、秋の山菜は見分け方が難しいので、決して自己判断で口にしないこと。お帰りになってから、僕が確認します。
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