第1章

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 「サンキュー、さすがだな」  エースはぶすっとそっぽを向く。  「仕切んじゃねえよ、金満坊やが」  カイのどこからか、「ぐふっ」っとかすかな音で息がもれた。  あたしは横目で見ていた。  カイは耐えた。    エカキが近くの木を見上げる。  「これは赤松じゃないかな」  「ってことは……」  あたしとあんなは声を合わせた。  「「松茸!?」」  さっそく松葉の積もった地面に集中する。  「松茸っておいしいの?」  気のないふうにエースが聞く。  あたしは必死で松葉をかきわける。  「知らない、食べたことないもん。でも高いんだよ、何万円もするやつもあるんだって」  「へえ、なら探す」  エースもしゃがんで探し始める。  「だって、おれなんて、ここで見つけなきゃ一生食べられないからな、誰かさんと違って」  とあからさまにカイを見る。  今度はカイは耐えなかった。  「おい! おれが何したっていうんだよ!」  立ち上がって鋭く叫んだ。  エースもまっすぐ立つ。  「別に。好きな女の前でカッコつけてるだけだろ……親の金で!」  「おれは平和を希求するが、いわれなき侮辱とは戦う!」  まっすぐ、エースに駆け寄る。  やっぱカイって変わってるなあって、あたしはぼうっと思った。テスト問題が配られて一個も解けそうなのがなくて、「ああこれはお手上げだ」みたいな感じ。  そんなぼうっと加減で、ふたりの取っ組み合いをながめていた。  「みずき止めて!」  あんなも、  「やめなよ!」  エカキも必死に叫んでいるけど、あたしはちょっと動く気にならない。  でも0.5ミリくらい「あたしのせい?」と思っちゃって、あたふた頭の中の黒板の文字を消す。いくらあたしがばかだろうと、身の丈ぐらいわきまえているって。  でも、0.4ミリ弱でもあたしの思ったとおりだとしたら、介入すると流れ弾に当たる展開じゃん……絶対にかかわらないでおこうと、心に決めた。  そのせいかケンカは終わらず、エースとカイとはおもしろいくらい長い間取っ組み合っていた。だんだん引っかいたりかみついたりに移行してきて、あんまし少年マンガ的には絵にならない。  さては、ふたりともそんなに強くないな。そのうちHPが尽きてやめるだろう。     △  すっかり飽きて、あたしは森の奥へ視線をやる。  「……ん?」
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