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最初はちょっとした違和感だ。間違い探しのようにぱっと見は気づかない。でも、間違いは確実に風景に埋め込まれてる。
二、三度ぱちぱち強めにまばたきしてから、今度は真剣に見返す。
お腹の底がしんとした。
なのに、耳の中にはジェットエンジンが入ってるみたい。
新聞でもネットでもテレビでもいいんだけど、ニュース画面が頭に浮かんだ。楽しかった昨日の晩ごはん、そのときのがきっと採用されるだろう。浮かれて全員の集合写真撮ったんだもん、みんなてらってらの笑顔で……あたしはぶんぶん頭を振った。
ダメだみずき、ダメだって、妄想に逃げてる場合じゃない、リアルに対処しなくては。
腕も動きづらいけどがんばって、隣のあんなのジャケットをつんつん引っぱる。
「あ、あんな、あんな」
声は当然かさかさだ。
「ん?」
あんながあたしを見て気楽に首をかしげる。
「あっちの松の向こう、そうっと見て……絶対に大きな声出さないで」
ささやきながら、そっちへあごをしゃくって見せる。
「!」
叫ぶ前触れに大きく息を吸ったので、あたしはがっちりあんなの口をふさいだ。
エカキもすでに、そっちを見て固まってる。
あんなの口を離し、取っ組み合いのふたりのそばに、あたしはひざをついた。
「カイ、エース、」
さすがのふたりも、あたしの様子が普通でないことに気がつく。同時に頭を起こして、凍った標識みたいになったエカキの指の先を見る。
熊は、5メートルと離れていない距離まで来ていた。
きっと身長2メートルは超えるだろう。すっくと二本足で立ったその姿は、現実空間を切り取った異次元の入り口みたいに真っ黒だ。
たっぷり30秒間、あたしたちも熊も動かなかった。
「騒ぐな、叫んだり急な動きはするなよ」
カイがささやき、みんなに目配せする。
「みんなで固まれ、はぐれるな」
エースが気絶しかかったあんなと、指さしたままのエカキをつかんで引き寄せる。
「連絡する、鴎に……」
カイは懸命にリュックを探るが、
「え?」
取り出したものをぽろんと落っことした。ストラップにぶら下がって、トランシーバはカイの手首でぷらぷら揺れた。でもすぐに我に返って、
「みずき、よせ」
あわてた声で呼ぶ。
あたし、自分が何をしたのかよく覚えてない。
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