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みんなの証言によると、あたしは近くに落ちてた太い枝を拾った。剣道のように両手でにぎって、振り上げると、
「おるああああああああああ!!!」
破滅のラッパのような声を上げたらしい。
熊はびくっと身を震わせる。
「みずき、やめてー!」
「やめろー!」
みんなの声なんて、ぜんっぜん記憶にない。枝をふりかざし走り出す。
熊はくるりと身をひるがえし、二本足で逃げ出した。
学年選抜リレー選手のあたしが追いつけない。
この熊、かなり速い。
このままでは追いつけない、そう悟った(覚えていないし、なんで追いつこうとしてるのか意味不明)あたしは、枝を陸上競技のやり投げのように構え、
「くっらあえええええええ!!!」
押し出すように放り投げた。
ひゅう、
風を切り、枝はまっすぐ飛んで、
ごつ。
重い音を立てた。同時に、熊が地面につっぷした。落ち葉が舞い上がる。
反動で、あたしもその場につっぷしていた。
「はれ?」
やっと我に返った。全身の力が入らなくって、立てない。
倒れたまま、倒れた熊をながめていた。
熊は、あわてた動作で立ち上がった。
左肩のあたりをおさえ、痛そうに体を傾けひょこひょこ歩き出す。やがてすたこら走り出し、とうとう森の奥へ姿を消した。
△
気がつくと、あたしはベッドの中にいた。夢かと思ったんだけど、
「みずき、気がついた? 大丈夫?」
あんなが枕元にダッシュで来た。
熊を見送ったあたしはそのまま気絶して、駆けつけた鴎さんにおんぶされて、パオまで戻って来たそうだ。
あんなに手を引かれて出ると、外はひんやり、もう真っ暗だ。
丘を下ったところに、点々とオレンジ色のランプの灯が見える。
タープから数人がぽろんぽろんと出てきた。
「おおーい、みずきー」
「だいじょーぶー?」
カイとエースがそろって手を振る。あれれ、仲良さげじゃないの。
あたしはあんなの手を離し、すっかり元気なのを見せつけようと思った。
「だいじょぶだああ」
叫んで丘を駆け下る。
でも、途中から勢いがつき過ぎて、
「ああれえええ」
足が止まらなくなる。おお前方に、例の小川が接近!
「みずきっ!」
あんなの悲鳴がこだまする。
でも、あたしは小川にははまらないで済んだ。
「ぐええ……」
「そのゲーム、やめなよ?」
あたしのえりくびをつかんで、ひぐっちゃんがあきれる。
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