第1章

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 「あの場面で熊が出るのって、めっちゃ共通の危機体験だよね? その結果、あたしたちの結束はがっちがちに固まった」  返事はないから、あたしはひとりでしゃべる。  「で、昨日のご飯のあと、あたしメインラウンジにお風呂行ったんだよね、そしたらさ、ロビーに飾られてたの、真っ黒な……わっ!」  急ブレーキがかかって、あたしの肩でがちんとシートベルトが止まった。  「あああ、ばかやろー轢くぞこらあ」  ひぐっちゃんは棒読み気味に叫んだけど、道路はがらんと広くて通行人も対向車も見当たらない。  「うふふ」  あたしは体の力を抜く。ちょこんと、ひぐっちゃんの肩に頭を預けた。  「くっつくな、ばか」  いったけど、ひぐっちゃんはあたしをどかさなかった。  「ありがとうね、ひぐっちゃん」  「なにが」  ぶすっと前を見つめている。  「だって、ほかにばかな人がいたら、自分が多少ばかでも気にならないでしょう?」  また黙ってしまった。  「そいでごめんね、ここ、だいじょぶだった?」  あたしがぐいっと頭に力を込めると、  「痛って!」  ひぐっちゃんはその場でわずかに飛び上がった。
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