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白い城壁は炎による黒と血痕による赤で汚されている。 そこに美しき城と呼ばれた様子を見ることはできない。 「陛下!お逃げください!」 ドアを乱暴に開けて部屋に入ってきた騎士がまくしたてる。「もう持ちませぬ!」 しかし彼の願いとは裏腹に紅いローブをまとった男は腕を組んだまま玉座から動かない。 「陛下!」 「ご決断を!」 「今ならまだ!」 玉座の間にいる側近達からも悲痛な声が挙がった。 皆必死の形相で沈黙する王に懇願している。 「もう少しだ......もう少し」 王の眉間のしわが一層と深くなる。 逃げだしたいのは彼も同じであった。 死の恐怖はすぐそこに迫っている。 しかし、彼には城を離れられない理由があった。 「陛下!」 再びドアが開く。 侍女が息を切らして飛び込んできたのである。 「誕生、誕生されましたっ!姫君です!」 「そうか!」 国王は目を見開き立ち上がる。 これで最悪の事態は避けられる! わずかに見えた希望に王の表情が緩んだ時だった。 突如として壁の一部が破壊される。 「......だが遅かったか」 王は力なくつぶやいた。 大きく空いた穴。 そこから黒ずくめの甲冑をまとった騎士がゆっくりとした足取りで入ってくる。 「あのヘルムは」 「『死神』......!」
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