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髑髏をかたどった黒いヘルムは向きを変え、その視線がゆっくりと王に向けられる。 「へ、陛下を守れ!」 その場にいた数名の騎士が『死神』を取り囲むようにして剣を構えた。 しかし剣を持つ手は震え、目には恐怖が映る。 「っ!」 王は侍女のもとに駆け寄り、耳打ちする。 「陛下......!」 「準備は整っておるな?」 「はい」 「ここから出たらセスタリックのスゥベルに渡れ」 騎士達の断末魔が響き渡る。 後ろを振り返ると黒い騎士が側近の1人を貫いた剣をゆっくりを引き抜くところが見えた。 王と侍女と黒騎士以外立っている者はいない。 「あそこの領主はよそ者に寛容なようだ。そこに身を隠せ」 震えながらもうなづく侍女。 黒騎士の視線が再び王へ向く。 「あとこれを」 侍女は王から差し出されたものを受け取る。 それは柔らかい手触りの布に包まれた棒状の何かであった。 「娘を、頼む......行け!」 侍女は最後に深く頭を下げた後、入ってきたドアから出ていった。 火の手はいつの間にか玉座の間まで広がっていた。 騎士達と死体は飲み込まれる。 静寂。 聞こえるのは心臓の鼓動と建物を燃やす音のみ。 「待ってくれたのか」 返事はない。 黒騎士はゆっくりと剣を構える。 その目は王を静かに見つめていた。 「......よかろう」 せめて一矢報いてやろう。 杖を取り出し『死神』に向き直る。 その瞬間であった。 黒き刃が音もなく、王の心臓を、貫いた。 「......願わくは、娘に平穏な人生を」 絞り出すような声が、彼の辞世の句となった。 黒騎士は、血で染まった王冠を見つめ、理解した。
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