あれ?

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 一箱全部の睡眠薬を掌の上に乗せて、一気にビールで胃に流し込む。  そして薬が効くまでは景色でも楽しもうかと、空を仰いだ。  そこには雲一つない澄み渡った夜空が広がっていた。  邪魔するものがないからか星達は心なしか活き活きと瞬いている。  東京ではきっと見られない美しい夜空に、みきはこの海を選んで正解だったと満足した。  グラリと体が傾いて、みきは呆気なく海に沈む。  まさか眠りよりも先に沈むことになるなんてと、襲い来る水の冷たさと、波の荒々しさの中で思った。  呼吸器官を全て水で塞がれて、口からごぼりと気泡が溢れる。  空を目指すように駆け上っていく泡達。それを掴もうとするように揺蕩う左手の、薬指に嵌まった輝きの向こう側にみきは過去の幻想を見た。   頭の中を駆け巡る膨大なそれの殆どに裏切ったひろの姿が現れて、みきをもっと苦しめる。  どうして最期くらい穏やかな気持ちで逝かせてくれないのかと縋るような目で記憶の中のひろの顔を見た瞬間に、何かが弾ける音がした。  『絶対に外に出ないこと、すぐに帰ってくるからね』  そう言って昨日の朝に玄関先でみきを抱き締めて、頬にキスを落としたのは、ひろ。  『もう、大げさだよ』     
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