1088人が本棚に入れています
本棚に追加
/63ページ
そう応えて、お返しにひろの唇にキスをしたのは間違いなくみき自身で……。
何なんだろう?この記憶は?
睡魔と息苦しさで朦朧とした脳が、苦しみを忘れさせる為に作り出した幻想の一つなんだろうか?
いや違う。だってこれは……
重たくなった瞼の、閉じようとする力に逆らって目を見開く。
みきは自分が今、どんなに愚かしいことをしているのかを鮮明に思い知った。
早くこの水の中から出なければと藻掻こうにも、睡魔の性で指がピクピクと痙攣するように動くだけで、足も腕も最早自分の意志では動かせない。
もう一度、ひろ君に会いたい。
ただそれだけが頭を支配していく。
でも、もうどうにもならなかった。
掠れていく視界の端で投げ捨てたスマホの画面が明るく光る。
しぶとく海に漂っていたそれは、そういえば防水だったななんてボンヤリと思って、画面に表示された名前にみきは優しく微笑んだ。
これが幻覚だとしても、愛しい人と繋がって死ねるならまあ良いかな。
そう思って、みきの意識は黒く塗り潰された。
最初のコメントを投稿しよう!