全貌を語る

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 その当時ひろは大切な番を養うために仕事に殊更打ち込んでいた。  もちろん、それで番に寂しい思いをさせる訳にはいかないからと夫婦の時間もちゃんととるようにして。  ひろにとっては順調な日々であったけど、みきには地獄のような毎日だったのだと、気付いたのはずっと後のこと。  ある日ひろはいつも通り帰宅して、みきが玄関まで迎えに来た。だからいつも通りにひろはみきを抱き締めようとしたけど、みきはそれを拒絶して、一枚の紙を差し出した。  それは端的に纏めてしまえばみきが子供を作れない体だという診断書だった。  みきはぼろぼろと涙を零しながら、番を解除して欲しいと言った。  みきが恵まれない家庭で育ち、自分の家庭を持つことに途方もない憧れを抱いているのを、ひろはよく知っていた。  その為に法律が許す最低限の年齢で二人は籍を入れたんだから。  きっとみきは、自分が子どもが作れない体だと知って、せめてひろは自分と別れて子どもを作って欲しいと思ったのだろうとひろは予測した。  自分が身を引くことでひろを幸せにしようとする、みきのエゴとも言える献身にひろは自分がどれだけ愛されているか再認識する。     
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