<11>

2/6
前へ
/123ページ
次へ
 実のところ――プライドに賭けて負けられない勝負を仕掛けたのは、星野愛良こと金田聡子も同じである。  聡子にはファンがたくさんいて、影響力も非常に大きい。それは即ち、ミスや敗北も同じだけ周囲に広まってしまいやすいことも意味している。ましてや、今回は完全にこちらから勝負を仕掛け、それを大々的に宣伝した形なのだ。ただでさえ五ツ星の自分が格下を相手に喧嘩を始めた形である(聡子からすれば、向こうが最初に喧嘩を売ってきたんだと言いたいのが本心だが)。これで敗北などしたらとんだ大恥になるのは間違いない。 ――そうよ。…私は五ツ星の女帝・星野愛良。あんなクソ生意気な、何処の馬の骨とも知れない奴に負けるわけにはいかないの…!!  それがわかっているからこそ――聡子は断然自分が有利な土俵にマルイタカヤを誘い込んだのである。ファンタジーは自分の十八番だ。書籍も出しているし知名度も高い。それだけに求められるレベルも高いだろうが、審査員達を充分唸らせられるものを書けるという自負が聡子にあるのも事実だ。  そもそも、今度のコンテストは六万文字下限で設定されている。コンテストの締め切りまであと一ヶ月ちょっとしかない。それまでに六万文字以上を書ききること、そのものが素人には困難なはずである。仮にマルイタカヤがニートで無限に時間があったとしても、だからその文字数を書ききれるかどうかは全く別問題だろう。  そして当然、聡子はもうとっくの昔に書き始めているわけで。――サプライズ目的で、ギリギリまでお披露目を控えていたことが功を成した形だった。わざわざ連載形式でちまちま更新して、敵に手の内を晒してやる理由はないのである。 ――今回のテーマは“異世界転生”。なるほど、流行に敏感な運営様は流石といったところかしらね…。  異世界転生。現在、Web小説で流行しているスタイルの一つである。  元々はスターライツではなく、“作家になろう!”という小説投稿SNSから発生した流行だったはずだ。平凡な現代人が事故やらなんやらで死んで、ファンタジーな異世界に前世の記憶を持ったまま転生したらチートな勇者でした!なんてのが主流な流れであったはずである。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

7人が本棚に入れています
本棚に追加