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◇
無機質なテーブルと椅子だけが設置された一室。
翌日、マスターの遺言書は霞が関にある裁判所の職員によって開封された。
「・・・・・・以上が、こちらに記された遺言です」
そう言って職員が紙をそっと机の上に置く。
マスターの遺言書には、店を含む自分の全財産を、唯一の『友人』であった袋小路葉に譲る旨が書かれていた。
大雨のあの日、店の前に傷だらけで倒れていた葉さんを助けた時のこと。
『このまま死んでしまえば良かった』と言う彼に少しでも生きる理由を見つけさせてやりたくて、店の植物の育て方を教えてやったこと。
病気が進行して自力で歩けなくなった自分に、葉さんが車椅子を押して満開の桜を見せに連れて行ってくれたこと。
文面の中には葉さんとの日々を懐かしむように、沢山の思い出が綴られていた。
そして最後に、孤独であった自分を助け、ただ一人の『友達』になってくれたことへの感謝の気持ちが記されていた。
葉さんは瞳を伏せ、職員が読み上げるマスターの言葉に耳を傾ける。
涙をこらえているのか、華奢な彼の肩は、小刻みに震えていた。
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