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「『気持ち分かるよ』って言ったら、みやびちゃんは怒る?」
振り返ると、はやてがこちらを見つめていた。右手を握ったまま、彼は大きな瞳をこちらに向ける。
「ううん、怒らない」
そう言って首を振ると、彼は安心したような笑顔を浮かべて口を開いた。
「自分、声優として成功するまで地元に帰れないんだ」
「どうして?」
「家出してここに来たから」
「えっ」
初めて語られるはやての過去に驚く。
「両親はどっちも医者。アニメとかゲームが大嫌いで、部屋でこっそりアニメ見てるのがバレたら滅茶苦茶怒られた。高校生の時、頑張ってバイトして貯めて買ったゲームを一週間で捨てられたこともあるよ」
オタクにとっては地獄のような環境に、思わず身の毛がよだつ。
「自分は病院の跡継ぎだったけど、どうしても声優の道を諦められなかった」
雨を避けるためにパーカーのフードを被り、彼は続ける。
「小児病棟に入院してる子どもに、動物やアニメのキャラクターの声を真似して聞かせることが好きだったんだ。投薬や治療で苦しんでいる子達も、その時だけはすごく喜んでくれて、これが自分の生き甲斐だと思った。親にはふざける暇があるなら勉強しろってよく言われてたけど」
声優になるために上京する話を巡っては、家族で大喧嘩になったそうだ。結局はやては友人の協力を得て真夜中に実家を飛び出し、東京まで辿り着いたのだと言う。
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