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◇
「葉、どういうことだ!」
大声を上げたハルさんが手紙を机に叩きつける。
閉店後の店内には、私と葉さん、そしてハルさんがテーブルに集まっていた。
「ここに書いてある通りだよ。先代の親族を名乗る人物が、この店の所有権を主張して来た。フクパラの営業は認めて無い、ってね」
葉さんはのんびりとした動作でコーヒーを飲んだ。
一見いつも通りに見えるが、彼の纏うオーラからただならぬ気配が嫌でも感じ取れる。
「このカフェには先代がいたんですか?」
私の問いに、ハルさんは「実はな」と頷く。
「アンタも分かってたと思うが、この店古臭ェだろ?」
「はい。それは初めてお店に来た時から思ってました」
「フクパラ開くに当たって多少のリノベーションはしたけどよ。先代が喫茶店やってた頃から、テーブルとか棚とか、その辺のモンはそっくりそのまま使ってンだよ」
現在も店内に残る調度品の一つ一つが、先代が長年に渡って集めたこだわりの品だったらしい。中にはわざわざ海外に出向いて調達したものもあるのだとか。
シックな内装は良い意味で言えばレトロでノスタルジック、そして悪く言えば古臭い印象を与える。
けれど忙しない池袋において木目調の店内は落ち着いた時間を過ごすことのできる貴重な場所として、ゆっくりとした時間を過ごしたい女性のお客さんからはウケが良かった。
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