6話「督促状」

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「池袋にはね、昔沢山の不良がグループになって、縄張り争いをしていたんだ。俺は小さい頃から家が嫌いで、夜の池袋に入り浸るうちに不良集団に属してた。喧嘩したり裏社会のビジネスしたり、悪いことは一通りしたかな」  彼の言葉に、思わず息が止まる。  初めて知った葉さんの過去に驚きを隠せない私を前に、彼は「昔の話だからね。今は足を洗ったよ」と笑う。  私の知る葉さんは、人を愛し、植物を愛する心優しい青年だ。  夜の世界で悪さをしていた人にはとても見えなかった。 「16歳の時に、俺は池袋西口周辺を縄張りにする集団『鵂』のリーダーになった」  理解が追い付かない私をよそに、淡々とした口調で葉さんは続ける。 「『西池袋抗争』は鵂と、他の四つのグループが深夜にぶつかり合った大きな喧嘩だった。抗争では命を落とした奴もいる」  彼の瞳に影が差す。過去を語る声色が、少しだけ低くなった。 「本当は避けられる争いだったんだ。その日、俺が定例会の場所を西池袋公園に指定したせいで、抗争に巻き込まれてしまった。俺も大怪我を負って一人で東池袋に逃げたけど、途中で意識を失って。助けてもらったのがここ」  葉さんはテーブルを指差す。 「フクパラは、元々一人のマスターが切り盛りする古くて寂れた喫茶店だった。彼が店の前で倒れてる俺を拾ったんだ」
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