6話「督促状」

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 重傷を負っていた葉さんはマスターが呼んだ救急車によって一命を取り留めたのだそうだ。 「あの時はこのまま死んでも構わないと思っていたよ。目の前で縄張りも仲間も、全て失ったんだ。生きる理由も最早無かったのに、このオッサンはどうして自分を助けたんだろうってしばらく恨んでね」  昔を懐かしむかのように小さく笑いながら、葉さんは語る。 「怪我が回復してから俺は鵂を解散させ、マスターの元で働くようになった」 「マスターは今、どこに?」  この店へ来てから、マスターの姿を見たことは無い。  私の問いに、葉さんはぽつりと答えた。 「マスターは去年の暮れに他界したよ。最後の『友達』だった俺にこの店を遺して」  葉さんに出会った時から、マスターは既に病気を患っていたらしい。葉さんの手助けもあってその後何年かはカフェを続けることができたが、昨年彼に看取られて池袋の病院で息を引き取ったのだそうだ。
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