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督促状を持って来た男のような物々しさは感じられないが、明らかにこの店に来る客ではない。
前に立つ男はわずかな緩みも無くスーツを着こなし、黒縁の眼鏡を掛けている。整った顔立ちをしていたが、隙を見せない外見から几帳面な印象を受けた。
一方彼の後ろに立つ男は、前の男よりも若く、おどおどとした動作から頼りない印象を受ける。彼だけアタッシュケースを持っているところを見ると、眼鏡の男の部下のようであった。
「二人、お願い出来るかな」
前に立っていた男がはやてに問いかける。はやては慌てて「こちらへどうぞ」と拭いたばかりのテーブルに案内した。
メニューを手渡すと、男はぱらぱらとめくる。
そしてメモを持つはやてに向かって注文した。
「『オーナーおすすめカプチーノ』を一つ。君は?」
男に促され、部下も「わ、私は『美声になれる秘密のハーブティー』を」と慌てて答えた。
「雪、あの人たち、ほんとうにふつうのお客さんかな?」
「どうだろう・・・・・・フクパラのぬきうちチェックに来た先生とか?」
「ええっ、そんなの怖いよ」
結君が飲み物を用意している間、ちびっ子達と共にキッチンからそっと二人の様子を伺う。
男は腕を組んでじろじろと店内を見回し、部下に対して時折言葉を掛けていた。
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