寝かせる

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 憂鬱だった毎日が嘘のようだ。楽しみができると、人生はこれほどまで変わるものなのか。  いままでこれといった趣味も持たず、ひたすら仕事に打ち込んできた。かと言って、仕事で上りつめたわけでもない。積み重なっていくのは、勤務歴だけ。  「なんで貴方をこの部署に置いているか分かります?」年下の部長に呼び出され、呆れ顔で言われた。 「貴方が私に仕事を教えてくれた人だからですよ。……使えるかどうかは別として、ね」  元部下たちは次々出世していく。自分に頭を下げていた頃が夢のようだ。今は彼らに頭が上がらなくなってしまった。  こんな感じだから仕事場に自分の居場所はない。かと言って、家にも自分の居場所があるわけではない。当時のラッキーカラーだったエメラルドグリーンの外観をした、このアパートで独り暮らしを始めて十年が経った。その間に季節が幾度も移り変わったように同棲相手も変わっていった。年上、年下、同級生、年齢だけでなく性格や見た目の異なった女性たちと付き合っても、彼女たちが別れ際に告げる台詞は皆同じ。 「あなたには将来性が感じられない」  自分でも思うことだ。女性ならよりそう思うだろう。結婚に関して、彼女たちはとてもシビアだから。  
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