第1章 清野 藍

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第1章 清野 藍

  『勝~って嬉しい~はないちもんめ! 負け~て悔しい~はないちもんめ!』 『あの子が欲っしい~、あの子じゃわからんっ。相談しましょ、そうし~ましょっ!』 学校の友達とお昼休みに遊んだはないちもんめ。 少しだけ、周りの友達と上手く接することが出来なかった女の子。 面白いことも言えず、友達に相槌を打っていた女の子。 5人1組を2チーム作って遊んだ、はないちもんめ。 その子にとっては地獄のはないちもんめ。 『誰がいい?』 『かなこちゃんは?』 『う~ん』 みんなが誰が欲しいか作戦を練っている間に、一応相槌を打って参加する。 その子以外、みんな楽しそうにどの子にしようか悩んで話し合っている。 その間、手持無沙汰なその子がそわそわとしていると、相手側の相談内容もちらりと聞こえてしまったのだ。 『誰にする~?』 『清野(きよの)はいらないよな~』 はっきり聞こえた男の子の言葉。 その言葉は何度も女の子の頭の中で木霊した。 ……清野は、いらない。 その日の夜、女の子は眠れなかった。 泣いた顔を親に見られなくて、学校から帰ってきてからずっと泣くのを我慢していたのだ。 心臓がばくばくして眠れそうにないし、自分の部屋の窓を開けて空を見ていた。 喉から何か出そうなくらいの苦しさと、胸が焼けるような感覚は当たり前のように襲ってくる。それなのに、不思議と涙は出てこなかった。 見上げた空の星があまりにも綺麗だったからかもしれない。 『清野はいらない』 耳に残る声をさえぎるように首を振る。 そして再度、見上げると……きらりとひとつの星が空を駆け巡るのが目に入った。 お星さま、お願いします。 ……もう、誰にもあんなこと言われたくない。 私に特別な人がいたら、こんな気持ちもきっと吹っ飛ばせるのに。 私にとって、特別な人が現れますように……。 目を瞑りながら、その流れる星に女の子は懸命にお願い事をしたのだ。 いつもと3つ違うことがあった日だった。 心を傷つけられた些細な言葉と、流れ星が降ったことと、女の子が眠りにつく前に願い事をした以外は。 その日、女の子は夢を見た。 黒い靄がかかった世界が浮かび上がって、そこに1人の人間が現れた。 手足が長く、首も長い。長すぎて、顔まで見えない。 他の人から見れば、人間ではないと思う生き物だ。 でも、女の子から見たら、手足があってお洋服を着ている。それだけで人間なのだ。 その人物は、よく聞き取れない言葉で喋っている。 女の子が普段使う言葉でもない。かといって、世界共通で使われる言葉とも違った。 今までで聞いたことのない初めて耳にする言葉だった。 初めてのはずなのに、意味が分からないはずなのに。 『大切にするといい』 女の子にはそう伝えたいことだけ、はっきりと分かった。 そして、その人間は自分の胸の前に手を置くと、スッと何かを身体の中から取り出した。 身体から出てきた物体は光輝いていて形がよく見えない。 でも真っ暗な空間に唯一存在する光だった。 そして、女の子に差し上げるように彼女の前に突き出した。 女の子は臆することもなく、しっかりと頷く。 手をゆっくり伸ばして、その人物からその光輝いているものを受け取ったのだ。 それと同時にその物体が勝手に心臓のある部分に入り込んだ。 輝きは一気に消えて、その女の子の身体に埋められてしまった。 『      』 それだけ聞こえて、女の子は目をバッと開く。  
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